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驚きだった。 「なんで、きみみたいな子が、こんな所でバイトしてるんだよ?」 「うん。ちょっとね」と、真理子は言った。 「いま、いろいろとお金が要りようなのよ」 「きみみたいな子が?」 「まあ、いろいろあるのよ」と、真理子は言った。 「ねえ、杉崎くん。バイトは、もうお終いの時間なんだ」 真理子は言った。 「良かったら、私をうちまで送ってくれないかな? それとも嫌かな?」 「何てことないよ。送るくらい」と、ぼくは言った。 「朝のあれ、なんだったんだよ」 真理子をうちまで送りながら、ぼくは尋ねた。 「そのままの意味なんですけど…」と、真理子はぶっきらぼうに答えた。 「びっくりするじゃないか。きみは、ぼくのことを知っていて、声をかけたのかい?」 「たまたまよ」と、真理子は答えた。 「たまたま、あの場に居合わせたのが、杉崎くんだったの」 「まあ、いいや」と、ぼくは言った。 「人それぞれ、事情があるんだろうから」 やがて、夏休みが終わり、二学期が始まった。真理子は、滅多に学校へ来なかった。まるで、そんなことは、自分にとって、重要ではないと言うように。こんなことを続けていれば、確実に留年するはずだったが、真理子はそんなことは気にもかけていない様子だった。 「学校生活というのは、実にくだらないものの一つよ。くだらないと言うより、おぞましいものだわ」 ある日、CDショップから帰る道すがら、真理子は言った。バイト先のCDショップから、真理子をうちまで送り届けるのが、ぼくの毎日の日課のようになっていた。 「学校という所は、私たちを押しつぶす装置なのよ。才能も自分らしさも、全てを押しつぶしていくのよ」 その頃から、ぼくは度々、真理子に呼び出されるようになった。会うのは、いつも、駅の大通りから、道を一本外れた、小さな喫茶店だった。ぼくは、今日も、真理子とその喫茶店にいた。煙草に火をつけると、真理子はぼくの顔に、ふーっと煙を吐きかけた。 「あなたも一本どう?」と、真理子は煙草をぼくに勧めた。 「教師に見つかったら、まずいんじゃないかな」 「賢明な意見だわ。だけど、くだらない」 真理子は煙草の箱を引っ込めた。 「本当にくだらない」と、真理子は繰り返した。 「校則、道徳、法律。全てくだらない」 「くだらなくても必要なことだろ」と、ぼくは言った。