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「ルールは必要なんだよ。生きていく上ではね。ルールがないと困る人も、たくさんいるんだよ」 「行動規範ってわけ」 真理子は「ふん」と鼻を鳴らした。 「ルールがないと、その人たちは、何もできなくなってしまうのね」 「そうかもしれないね。何らかの行動規範を必要としている人は、たくさんいるんだよ」 「そんなもの、壊してしまえばいいのに」 「え?」 「行動規範に縛られた自分自身なんて、壊してしまえばいいのに」 「ぼくには、きみの言葉の意味がわからないんだけど」 「自己破壊というのは、崇高な行為だわ」 ぼくは目を丸くした。 「自己犠牲の間違いじゃなくて?」 「自己犠牲なんて、糞食らえよ」 「きみが言っていることの意味が、ぼくはやっぱりわからない」 「究極の自己破壊は、自ら命を絶つことだわ」 「だけど、きみはまだ生きている」 「かろうじてね」と、真理子は言った。 「自己破壊を続けることで、私はようやく生きていられるのよ」 真理子は、思いきりのびをした。 「だけど、生について考える。死について考える。どちらも特に面白いことではないわね」 ある日。真理子は、またぼくを喫茶店に呼び出して、今年のN展にも出品するつもりだと言った。 「だけどね。みんな、期待してるでしょう? 結構プレッシャーなのよ」 「まあ、きみは有名人だからね」 「有名になると、たくさんの人間が、まわりに寄ってくる。その大半は、くだらない人間だわ」 「そう決めつけないで、相手のことを知ろうと努力してみたら、どうかな?」 ぼくが言うと、真理子は苦笑した。 「その人を良く知れば知るほど、私は失望していくのよ」 「ぼくのことも?」 「不思議ね。あなたのことは、知っても失望しない。まだ、あなたのことを良く知らないせいもあると思うけれど」 「ふーん…」 「杉崎くんには、どこか捉えどころのない所があるのよね」 何と答えたらいいのか、ぼくはわからなかった。真理子は、くっつきそうになる位、ぼくに顔を近づけてきた。 「杉崎くん。私と付き合ってみたい?」 「え?」