【DO!BOOK・ページリンク】
0000275001   34 / 56

BOOKをみる

10秒後にBOOKのページに移動します


! 自分にだけ聴こえた音  大学で教育に疑問を感じ研究を続けていたある日、イギリス人プレイヤーのレジナルド・ケルのレコー ドを聴いていた時のことです。何万回と聴いていたレコードのはずなのに、これまでとはまったく違う音 が耳に届いてきたのです。音の抑揚が鮮明になり、音の立ち上がりや尾部がクリアに聴こえるではないで すか。これまで聴こえていなかった音が、聴こえてきたのです。はじめは自分だけが気付いていなかった だけで、ほかの音楽家には聴こえていたのだと考えました。しかしその後、結果的には私だけに聴こえて きたという事がわかったのです。 さらに二年が経って、遂に私は「聴覚は、言語だ」というところにいきついたのです。  私たち日本人が音楽的だと解釈するのは演歌です。西洋音楽をやっていても、私たちの頭の中には演歌 がある。西洋音楽を一生懸命やってもうまくならないのは、頭の中は邦楽だからです。たとえば英語の発 音で「SEVEN ELEVEN」というと、日本人はわからないから「えっ?」と何回か聞き返します。わ かった瞬間、「あぁ、セブン・イレブンね」と邦訳するのです。西洋音楽もこれと一緒で、せっかくモーツア ルトを聴いているのにぜんぶ邦楽に置き換えてしまう。自分の耳に心地よく聞こえるように、邦楽のリズ ムに脳が置き換えてしまうのです。聴こえた音をそのまま聞くように、脳に想像力を持たせないようにす ることができないものかということを考えはじめました。 32